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離婚調停の前に財産の仮差押は出来るのか?
離婚の際に夫婦が対立する原因に慰謝料請求などのほか、財産分与があります。しかし、財産を多く持つ配偶者に対して財産分与を請求したくても、浪費されたり隠されてしまってはどうすることもできません。離婚調停後に受け取る財産を守るための方法をまとめました。
調停前の「差し押さえ」は出来ない
財産分与で自分はいくら受け取れるのか、そして相手はきちんと支払ってもらえるのかという点は、誰しも非常に気になる点です。
- 財産分与は2分の1ずつが一般的
離婚時には、夫婦が結婚生活で協力して築いた財産を分け合います。財産分与の対象は、預貯金、生命保険、自動車、不動産(家・土地)などです。いずれも名義は夫婦どちらか1人となっているはずですが、結婚後に夫婦の協力があって形成できた財産ならすべて財産分与の対象です。分け合うときのそれぞれの比率は、夫と妻それぞれ2分の1ずつとするケースがほとんどです。
注意したいのは、プラスの財産だけでなく住宅ローンなどの債務も財産分与に含まれるという点です。また、独身時代から持っていた財産や、親から相続・贈与を受けた財産は、財産分与されません。 - 差し押さえには債務名義が必要
離婚調停を申立てると、一般的に結論が出るまで半年ほどかかります。この間、相手が「離婚して相手に取られるくらいなら、今のうちに財産を使ってしまおう」「財産を渡したくないから隠しておこう」と考えないとも限りません。そんな時に頭に浮かぶのが、相手の財産の差し押さえです。しかし、差し押さえには「債務名義」という公的な文書が必要です。債務名義にあたるのは、協議離婚の際に任意で作成する公正証書や、調停調書、裁判の判決などです。つまり調停を行う前には債務名義がないので相手の財産を強制執行で差し押さえることはできません。
「仮差押」なら調停前でも可能!
しかし、調停前でも離婚後に受け取る財産を守る方法があります。それが「仮差押」です。
- 調停前の仮差押とは
仮差押とは、預金を引き出したりお金を移動させられないように、裁判所の命令で相手方の銀行口座を凍結させることです。仮差押には「民事保全手続き」を利用します。民事保全手続きを行うと、離婚訴訟で結論が出るまでの間、相手方は特定の財産を勝手に処分することができなくなります。
民事保全手続きは執行力のある手続きです。このため手続きを行うには次のような要件が定められています。まず、離婚原因が相手方にあること。財産分与は離婚原因をどちらが作ったかに関係なく請求できますが、仮差押ができるのは離婚原因を作っていない側となります。次に、なぜ保全手続きが必要なのか、客観的な理由があること。相手方が口座をたくさん持っていることなどが理由となります。そして、保証金を収めること。保証金額は財産の額などによって変動しますが、離婚の結論が出た後に返却されます。
- 「審判前の保全処分」という方法も
民事保全手続きよりも保証金を少額で済ませる方法もあります。それは「審判前の保全処分」です。調停ではなく審判を申し立て、それと同時に保全処分も申し立てるのです。保全処分の申し立ては「調停申し立て」と同時に行うことが不可能ですが、「審判申し立て」と同時は可能です。家庭裁判所は財産分与に関する審判を職権で調停に付することができるので、当事者が参加する実際の手続きは調停となります。
調停前に財産の仮差押をする際の注意点!
財産の仮差押には、財産隠しを防げるメリットがありますが、その一方で注意しなければならない点もあります。
- 相手の口座情報を調べておく
将来もらえる財産を守るには、スピーディーな行動が欠かせません。特に財産分与をめぐってもめている場合は、相手方のほうが先に手を打って財産を隠すかもしれないからです。仮差押をすると決めたら、相手が預貯金に利用している銀行名や支店などの口座情報を速やかに把握しておく必要があります。最も簡単な方法は相手の持つ通帳を確認することです。銀行への問い合わせは、離婚前の配偶者とはいえ、個人情報保護の観点から難しいでしょう。
- 相手の怒りを買う可能性がある
また、仮差押を行うと相手の怒りを買う可能性もあります。仮差押が実行されると、相手の元には裁判所から仮差押を知らせる通知が届きます。あるいは銀行のATMなどでお金を引き出そうとした時にエラーが出たり、クレジットカードの引き落としができなくなっていることで気づくかもしれません。こういった突然の出来事に、人によっては怒り、離婚に向けた交渉が困難になる場合もあります。仮差押は口座に入っている全額が動かせなくなるので、金額が大きいと特に相手の危機感も大きくなるでしょう。仮差押をしたことで話し合いがこじれ、離婚成立までに時間がかかるリスクもあります。
調停前の仮差押は、申し立てる側にとっては安心につながる制度ですが、口座凍結を受ける側にとっては少なからず嫌悪感や生活への影響がある行為です。やり方によっては離婚の話し合いを難航させてしまいます。実施するべきか、また効果的な方法などを知りたい場合は、弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。